我が家で太陽光発電の売電開始は2015年9月14日、発電開始から丸三年が経過しました。
残念ながらソーラーパネルを含め、設備全般の経年劣化によって、年々出力は低下していきます。
一条工務店の場合、パネルを含めた設備全般の劣化が年間1%、20年間で約20%劣化すると想定した発電量でシミュレーションが行われています。
異常な劣化が見られる場合、機器の故障によるものかもしれません。パネル搭載量の多い方にとっては、年1%の劣化でも年間数万円の売電収入が減少してしまいます。
ただこの劣化については、毎年の発電量を時系列で見ているだけではよく分かりません。
発電開始から2年の際にも、パネル劣化について検証しました。
どのように検証すればいいのか、今回はなるべく簡単な方法で行ってみました。
今回ご紹介するのは、あくまで我が家の3年間のデータに基づく結果です。一条工務店のソーラーパネルなどの劣化が我が家と同じように進むとは限りません。
発電シミュレーションと3年間の発電量
太陽光発電設備
はじめに我が家の太陽光発電の設備に関するデータをご紹介しておきます。
- 太陽電池モジュール(単結晶)…20.09kW(屋根15.17kW、ソーラーカーポート 4.92kW)
- 屋根勾配…1.5寸(屋根搭載・カーポート共)
- パネルの方位角…真南より2.45度東向き
- パネル設置場所…群馬県前橋市
- 買取価格…全量買取32円(税込34.56円)
- 夢発電システム利用…金利1%、支払回数120回(10年)、元利均等返済、毎月の元利金合計57,821円
特に断りが無い場合、発電量は我が家のパネル搭載量20.09kWによるデータです
パネルの仕様については、日本産業のHPをご覧ください。
一条工務店の発電シミュレーション
シミュレーションによれば、初年度の発電量は20,997kWhとなっています。
シミュレーションでは、損失としてパワーコンディショナ、素子温度上昇、その他損失(配線、受光面の汚れ等)によって、年間1%ずつ発電量が低下すると想定されています。
2年目の発電量は20,997×99%=20,787kWh。3年目は20,787kWh×99%=20,579kWhと計算していくと、20年間の発電量の合計は382,341kWhになります。
これに売電価格34.56円/kWhを乗じた結果が20年間の予想売電収入13,213,698円となり、ほぼシミュレーション通りになっています。
売電開始から3年悔過した我が家では、発電効率の低下が2%程度であれば、シミュレーション通りの実績となります。
実際の発電量
3年間の発電量の推移がこちらです。
- 2015年9月14日~2016年9月13日 25,225kwh(パネル1kwあたり1,237kwh)
- 2016年9月14日~2017年9月13日 25,402kwh(パネル1kwあたり1,257kwh)
- 2017年9月14日~2018年9月13日 25,723kwh(パネル1kwあたり1,280kwh)
発電量だけを見ると、年間1%の低下どころかむしろ増加しています。ただし、この発電量の合計を眺めているだけでは、設備の劣化がどの程度進行しているのかはまったく分かりません。
検証するために全天日射量を使います。
全天日射量で分かること
全天日射量とは
発電量を左右するのは、太陽からの放射エネルギー量になります。地表面が受け取る放射エネルギー量を測定した値が全天日射量と呼ばれる数値です。
気象庁は地上気象観測として、国内約50地点(主に気象台が設置されている地点)で全天日射量の観測を実施しています。全天日射量の観測データは気象庁のHPからダウンロードすることが可能です。
全天日射量と発電量の関係
発電を始めた2015年9月からの13,189時間で観測された発電量と全天日射量の値をグラフ上にプロットしたのが次のグラフです。
相関係数(R)の二乗が0.9となっていることから、全天日射量と発電量には強い相関関係があることが分かります。
つまり全天日射量は前年と比べてどのくらい増減したのか、そして実際の発電量の増減はどうだったのかを比較すれば、おおよその設備の劣化が分かります。
日照時間は使えないの?
よく「発電量は日照時間に左右される」と聞きますが、発電量を左右するのは主に日射量です。日照時間はあくまで目安に過ぎないことを知っておきましょう。
我が家のデータでは同じ日照時間ゼロでも
日時 | 日照時間 | 発電量 | 全天日射量 |
2017/6/7、13~14時 | 0 | 0.68kwh | 0.19kWh/㎡ |
2017/6/18、13~14時 | 0 | 7.31kwh | 1.63kWh/㎡ |
のように発電量は大きく違っています。全天日射量の方が発電量との関係性が高いのが一目でわかりますよね。
日照時間として観測されるのは
直射光により物体の影が分かるくらいの明るさ(直達日射量が120W/㎡以上)
を指します。
つまり120W/㎡未満の場合はすべて日照時間はゼロです。同じ日照時間ゼロでも発電量には大きな差が生じます。
上が全天日射量と発電量、下が日照時間と発電量を現したグラフです。日照時間で考えると、「冬季、日照時間が長いのに発電量が少ない」など、全天日射量と比べて発電量との相関関係は低いと言わざるを得ません。
全天日射量から損失がどのくらい発生しているかがわかる
全天日射量を使えば、発電量の推定が可能です。
推定発電量=(全天日射量)×(パネル搭載容量)×(温度・風向・風力・影の影響による補正係数)×(パネル受光面の汚れによる損失)×(パワーコンディショナの変換効率 )×(その他損失)
つまり損失0での発電量は上記の式の損失に係る部分(青色)を控除すれば、求めることが出来ます。
損失0における推定発電量=(全天日射量)×(パネル搭載容量)
この式を利用して、これと実際の発電量とを比較すれば、損失率の合計がどの位になっているか、すなわちパネル等の劣化の進み具合を推定することが可能です。
気象庁発表の全天日射量の単位にはMJ/㎡が使われています。推定発電量を求める際には単位をkWh/㎡に変換する必要があります。
3.6MJ/㎡=1kWh/㎡
で変換できます。
発電量の減少の原因がパネルの劣化にあるのか、パワコンの劣化なのか、受光面の汚れによるものなのか、個別に特定するのは不可能です
発電量と全天日射量の関係、実際の計算結果
発電量と全天日射量、3年間の比較
詳しく見ていくために、発電量、全天日射量、日照時間、気温を1時間単位で、合計13,149時間のデータで比較しました。
比較にあたり発電量または全天日射量が0のデータは除いています。
控除されたデータを見ると、①日射があってもパネルに積雪があり発電量が0、②発電しているが、気象台の移転、機器故障などで観測データがない、③パワーコンディショナー修理のため発電0などがありました。
表にしてみると
全天日射量(kWh/㎡) | 損失0(kWh/㎡) | 発電量(kwh) | 損失 | データ数 | |
1年目 | 1,414.7 | 28,423.1 | 25,067.4 | 11.8% | 4,357時間 |
2年目 | 1,434.0 | 28,810.3 | 25,421.3 | 11.8% | 4,395時間 |
3年目 | 1,497.7 | 30,090.6 | 25,573.9 | 15.0% | 4,397時間 |
3年間で損失は3.2%大きくなっています。ほぼ年間1%程度低下するシミュレーションに比べて1.2%程度低下が大きくなっています。
ここで注意しなければいけないのは気温によるパネル温度上昇による影響です。
気温別の損失
ソーラーパネルは気温が高くなればなるほど発電効率が低下するのは皆さんご存知の通りです。関東地方などでは真夏よりも春先の方が発電量が多くなるのはそのためです。
結晶系シリコン太陽電池の場合、補正係数は夏期は0.8、冬季は0.9という参考値が示されています。
参考(PDF) ガイドライン(太陽光発電協会)
本来はパネル内部の温度で検討すべきですが、現実的には測定することができませんので、代用として外気温をもとに計算してみます。
10℃刻みの気温ごとに、3年間でどのくらいの発電ロスが発生しているのか、調べてみたのが次の表です。
気温 | 全天日射量(kWh/㎡) | 発電量(kwh) | 損失 | データ数 | 平均気温 |
10℃未満 | 743.1 | 14,679.2 | 1.7% | 2,914時間 | 6.12℃ |
10℃以上20℃未満 | 1209.3 | 22,591.8 | 7.0% | 4,196時間 | 14.98℃ |
20℃以上30℃未満 | 1755.3 | 29,007.1 | 17.7% | 4,879時間 | 24.64℃ |
30℃以上 | 638.8 | 9,784.5 | 23.8% | 1,160時間 | 32.47℃ |
ソラーパネル内部の温度は気温に比べて30℃~40℃高く、気温が上昇し内部の温度が60℃を超す高温になると発電効率は非常に低下します。気温にすると20℃から30℃くらいでしょうか。
実際のデータからも気温が20℃を超えると、損失が急激に増加しているのが分かります。
さらに経過年数ごとに時系列で詳細を見ていきます。
気温10℃未満の場合
10℃未満 | 全天日射量(kWh/㎡) | 発電量(kwh) | 損失 | データ数 | 平均気温 |
1年目 | 216.1 | 4,225.8 | 2.7% | 870時間 | 6.4℃ |
2年目 | 264.4 | 5,349.6 | -0.7% | 1,048時間 | 6.2℃ |
3年目 | 262.5 | 5,103.8 | 3.2% | 996時間 | 5.8℃ |
ソーラーパネルのカタログ性能は、25℃で計測することが国際基準で決められています。パネルの温度が25℃より低い場合にはカタログ性能よりも出力が増え、逆に温度が上がると出力が減ります。
10℃未満の場合、パネル内の温度は25℃以下となっているようで、カタログ性能値に近い発電量、2年目に至ってはカタログ性能値以上の発電量となっていました。
気温10℃以上20℃未満の場合
10℃以上20℃未満 | 全天日射量(kWh/㎡) | 発電量(kwh) | 損失 | データ数 | 平均気温 |
1年目 | 412.6 | 7,783.6 | 6.1% | 1,470時間 | 15.2℃ |
2年目 | 414.9 | 7,819.0 | 6.2% | 1,358時間 | 14.9℃ |
3年目 | 381.7 | 6,989.0 | 8.9% | 1,368時間 | 14.9℃ |
この温度帯は、主に秋、冬の日中、そして春の季節のデータが中心となります。発電効率は3年目に3%近く低下していますが、気温も2年目と変わっておらず、原因はよくわかりません。
気温20℃以上30℃未満の場合
20℃以上30℃未満 | 全天日射量(kWh/㎡) | 発電量(kwh) | 損失 | データ数 | 平均気温 |
1年目 | 587.0 | 10,008.8 | 15.1% | 1,677時間 | 24.3℃ |
2年目 | 588.2 | 9,648.6 | 18.4% | 1,675時間 | 24.8℃ |
3年目 | 579.9 | 9,349.6 | 19.8% | 1,527時間 | 24.9℃ |
もっともデータ数が多いこの気温帯が、年間の発電量に大きく影響をしてきます。3年間で効率が4.7%も低下していました。
気温30℃以上の場合
30℃以上 | 全天日射量(kWh/㎡) | 発電量(kwh) | 損失 | データ数 | 平均気温 |
1年目 | 198.8 | 3,049.0 | 23.7% | 340時間 | 31.9℃ |
2年目 | 166.4 | 2,603.9 | 22.1% | 314時間 | 31.8℃ |
3年目 | 273.5 | 4,131.4 | 24.8% | 506時間 | 33.3℃ |
3年目の今年、2018年は猛暑となったため、3年目のデータ数が1,2年目と比較して多く、さらに平均気温も1.5℃も上昇しました。これに伴って発電効率も低下しています。
気温の変化による発電効率の低下
気温帯ごとにそれぞれ損失を見てきましたが、ハッキリとした規則性は分かりませんでした。
そこでざっくりと10℃未満と30℃以上の温度帯で、平均気温の差と損失の差を比べて、気温1℃で損失はどれくらいになるのか計算してみます。
気温 | 平均気温 | 損失 | データ数 |
10℃未満 | 6.1℃ | 1.7% | 2,914時間 |
10℃以上20℃未満 | 15.0℃ | 7.0% | 4,196時間 |
20℃以上30℃未満 | 24.6℃ | 17.7% | 4,879時間 |
30℃以上 | 32.5℃ | 23.8% | 1,160時間 |
(23.8%-1.7%)÷(32.5℃-6.1℃)=0.84%/℃
一般的に気温が1℃上昇すると損失は0.5%増加すると言われていますが、我が家のケースでは0.84%となっていました。
パネル自体の温度による損失が0.5%と仮定すると、それ以外のパワコンの経年劣化やパネル受光面の汚れなどで0.34%の損失が発生しているのかもしれません。
この0.84%/℃を考慮して損失を計算しなおすと
平均気温 | 損失 | 修正前の1年目との比較 | 修正後の1年目との比較 | |
1年目 | 18.2℃ | 11.8% | ||
2年目 | 17.8℃ | 11.8% | 0% | 0.2% |
3年目 | 18.4℃ | 15.0% | 3.2% | 3.0% |
2年間で3.0%とシミュレーションと比較し1%ほど大きくなっています。
ただし我が家の場合、発電開始は9月からですが、パネルの設置は5月上旬(引き渡しは7月下旬:引き渡し後発電開始まで2か月)なので、この間が4か月もあります。
発電せずに屋根の上に載っていた期間も含めると3%の損失も、ある程度妥当な数値と考えてもいいのかもしれません。
風速が発電に与える影響
前々から気にはなっていたのですが、中々調べる手間を考えるとついつい面倒だった風速と発電量の関係も、今回計算してみました。
風速 | 全天日射量(kWh/㎡) | 発電量(kwh) | 損失 | データ数 | 平均気温 |
1m未満 | 184.0 | 3,233.6 | 12.6% | 983時間 | 18.0℃ |
1m以上2m未満 | 1,206.9 | 20,836.7 | 14.1% | 4,080時間 | 18.5℃ |
2m以上3m未満 | 1,304.7 | 22,094.3 | 15.7% | 3,598時間 | 19.3℃ |
3m以上4m未満 | 705.2 | 12,069.6 | 14.8% | 1,993時間 | 19.1℃ |
4m以上5m未満 | 350.4 | 6,457.7 | 8.3% | 1,032時間 | 16.4℃ |
5m以上 | 595.2 | 11,370.6 | 4.9% | 1,463時間 | 14.4℃ |
結論から言うと、風速と発電量はあまり関係はなさそうです。データからは、やはり損失は気温と密接に関係性があるようで
強い風→北西からの季節風が多い→季節は冬から春にかけてが多く→そのため気温が低い日が多い→発電量効率が良くなる
という図式で考えた方がよさそうです。
最後に
こちらの写真は、先日の台風24号が通り過ぎた翌朝のカーポートの太陽光パネルの側面の様子です。
一番手前側のパネル側面に、台風の強烈な風雨で洗い流された埃や土などが付着しているのが分かります。
このようなパネルの受光面の汚れやパワコンの性能低下などは数値化するのが非常に困難です。
設備の劣化や不具合を放っておけば、その間得られるはずの売電収入が減ったままになります。さらに修理されない期間が長くなればなるほど損失はどんどん大きくなっていきます。
データはマメに確認を行うなどして、不具合には早めに気づけるように普段から気を付けておくことも大事かなと思います。
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