一条工務店発行の太陽光発電システムシミュレーションの中では小さい字で次のような記述があります。
損失:パワーコンディショナ(接続箱機能を含む)、素子温度上昇、その他の損失(配線、受光面の汚れ等)を想定。
発電効率の低下は年1%を想定し、1~10年、11~20年の期間の平均値を算出
(出典:オリジナル太陽光発電システムシミュレーション|一条工務店)
発電効率の低下は年1%、20年経過すると、当初の8割まで発電量は落ち込むことになります。この劣化が仮に年2%と仮定すると、20年後には6割まで減少することになるのです。
これから太陽光発電の設置を検討されている方にとっても、いったいどのくらい発電し、パネル劣化の進行度合はどのくらいになるのか、気になるところではないでしょうか。
以前の記事で太陽光パネルの劣化について考えてみたことがありましたが、データ不足の感は否めませんでした。
我が家の太陽光発電の売電開始は2015年9月14日です。ちょうど二年経過し、一年目、二年目と、ある程度まとまったデータが出揃ったところなので、二年間で太陽光発電システムがどの位劣化したのか、検証してみます。
今回ご紹介するのは、あくまで我が家における二年間のデータに基づくものです。一条工務店のソーラーパネル等の劣化が我が家と同じように起きるとは限りません。あくまで一例として参考程度に見て頂ければと思います。
二年間の発電量はどうだったのか
はじめに我が家の太陽光発電の設備に関するデータをご紹介しておきます。
- 太陽電池モジュール(単結晶)…20.09kW(屋根15.17kW、ソーラーカーポート 4.92kW)
- 屋根勾配…1.5寸(屋根搭載・カーポート共)
- パネルの方位角…真南より2.45度東向き
- パネル設置場所…群馬県前橋市
- 買取価格…全量買取32円(税込34.56円)
- 夢発電システム利用…金利1%、支払回数120回(10年)、元利均等返済、毎月の元利金合計57,821円
特に断りが無い場合、発電量は我が家のパネル搭載量20.09kWによるデータです
パネルの仕様については、日本産業のHPをご覧ください。
発電量
まずは年間の発電量を比較してみましょう。
2016年9月14日~2017年9月13日 25,402kwh(パネル1kwあたり1,257kwhの発電)
前年同月対比では、多かったり少なかったりを繰り返していますが、一年間を通して比較すると、二年間でそれほど変化はありませんでした。
売電金額
発電量を確認したところで、売電金額も見ておきます。
2016年9月14日~2017年9月13日 877,771円
我が家はパネル搭載費用を一条工務店のグループ企業、日本産業の夢発電システムを利用しています。
売電額、返済額、その差引収支の累計額は
二年経過した現時点での収支は約40万円のプラスとなっています。夢発電返済の元利金を差し引いても年利回りは3%となっています。
売電単価は年々下落していますので、償還年数、収支ともに私が導入した当時とは状況が異なります。
性能劣化を検証するための前提
発電量をもっとも左右するのは、太陽からの放射エネルギー量になります。この放射エネルギー量を測定した値が全天日射量です。この全天日射量を使ってパネル劣化が起きているのか確認していきます。
除外した発電データ
より正確な比較が出来るように、次のような日のデータを除外して検討しています。
- 全天日射量の観測データが行われていない場合(気象台の移転、観測機器の故障などの理由)
- 積雪により発電量に影響が出た場合
- パワーコンディショナの点検により発電が行われなかった時間があった場合
これにより、以下の検討では2015年からの1年目の発電量を24,849.5kwh、2016年9月からの2年目の発電量を25,249.2kwhで行っています。
傾斜面日射量を使用
全天日射量は、地面と平行な水平面で測定した日射量です。ところが太陽光パネルは1.5寸や3.5寸などの傾斜角で設置されているので、受光面の日射量は全天日射量で計測された日射量とは違っています。
設置パネルの傾斜角、方位角の条件をもとに、受光面が受ける日射量を計算したのが傾斜面日射量となります(計算過程は複雑なので割愛しました)。
傾斜面日射量は、自宅のソーラーパネルに日射計を設置して計測すれば分かりますが、それ以外には計算で求めるしか方法がありません。ここでは全天日射量から計算した傾斜面日射量を使っています。
全天日射量と傾斜面日射量はどのくらいの差が出るのか、比較したのが、次のグラフです。
1.5寸の傾斜角で設置している我が家の太陽光パネルの場合、太陽高度が低くなる冬期で、両者の値にはっきりとした差が現れます。
この両者と発電量の関係をグラフにしてみました。
日射量の少ない時期で違いが現れます。R2(相関係数の二乗)が、傾斜面日射量では0.9387となっており、全天日射量より傾斜面日射量の方が、発電量とより強い相関関係にあることが分かります。
具体的な性能劣化
傾斜面日射量から考えられる劣化度合
2015年9月~2016年9月 | 2016年9月~2017年9月 | |
傾斜面日射量…① | 1,466.5kwh/㎡ | 1,499.6kwh/㎡ |
発電量…② | 24,849.5kwh | 25,249.2kwh |
②÷① | 16.94kwh | 16.84kwh |
となりました。傾斜面日射量kwh/㎡あたりの発電量は16.94kwhから16.84kwhに減少していることから性能劣化は
となりました。
気温(パネル温度)の上昇による損失
傾斜面日射量だけを使った性能劣化だけでは十分とは言えません。
日射量ほどではありませんが、パネル温度の上昇も発電量に大きな影響があるからです。この点も考慮しないと、ハッキリとした劣化を検討するのが難しくなります。しかし一方でこの温度上昇による発電量への影響を数値化し、検討するのもまた難しいところです。
まずはこちらの2つのグラフをご覧になってみてください。
発電を始めた2015年9月からの1時間ごとに観測された全天日射量と発電量の値をグラフ上にプロットしたものです。
全天日射量の日毎の最大値は夏至を迎える6月が最も大きくなり、徐々に減少して12月が最も小さくなっています。
発電量も一見同じような分布となっていますが、時間あたりの発電量が、もっとも多くなる時期は2016年が4月、2017年は3月と全天日射量のピークとなる6月とはズレが生じています。
分かりやすいように発電量のグラフに、全天日射量を重ね合わせてみました。ピークとなる時期が2か月ほどズレています。
これはパネル内部の温度上昇が原因で損失が発生しているからです。温度が一定であれば、日射量が最大となる6月に最も発電量が多くなるはずです。
温度上昇による損失
正確な温度上昇による損失を求めるには、パネル内部の温度がどの位になっているのかを計測する必要があります。しかしながらこれを実行するのは不可能なので、代替手段として気温を使って、損失がどのくらい発生しているのか見ていきます。
2016年からの月別最高気温の平均(毎日の最高気温の月中平均)と損失割合をグラフにしたものです。
これによれば温度が1℃上昇するごとに、およそ0.7%の損失(出力低下)が発生しているようです。一般的には温度1℃に対して0.4~0.5%の損失割合となるようですが、それより若干高めの結果が出ています。
この温度上昇による発電効率の低下については以前にも考えたことがありました。
概ねその際の結果に近い数値となっていることから、今回の結果をもとに気温上昇による損失を考えていきます。
この損失係数にはパワーコンディショナの変換ロス、配線によるロス、パネル受光面の汚れによるロスも含まれていますが、ここでは無視して考えています。
2016年9月14日~2017年9月13日 最高気温の平均 20.9℃
温度上昇による損失の差 0.42%
2016年9月~は前の1年間と比較すると、平均気温は0.6℃低下しているので、パネル性能に劣化がなければ0.42%ほど発電量が増えているはず、と仮定することができます。
性能劣化は何%だったのか
傾斜面日射量の増加と温度低下による効率UPを加味した発電量を計算してみます。
パネルの性能劣化が0だった場合
という発電量が得られるはずです。
ところが実際の発電量は25,249.2kwhだったことから、我が家のパネルの性能劣化は1.04%であったのではないか、と考えられます。
一条工務店のシミュレーションに書かれていた発電効率年1%の低下に近い結果が得られました。このペースの劣化がこれからも続くのか、劣化のペースが変わるのか、これからも一年毎に検証を続けてみたいと思います。
最後に
損失係数を求めるのはそれほど難しいことではありません。ただし気象庁から発表している全天日射量の観測地点がそれほど多くないことから、お住まいの地域で比較的近い観測点があれば、計算してみるのもいいかもしれません。
計算方法は
- 気象庁HP「過去の気象データ」より全天日射量をダウンロードします。
- ダウウンロードした全天日射量の単位はMJ/㎡なので、計算しやすいkwh/㎡に変換します。1kwh=3.6MJです。
- 2で求めた値に搭載されているパネル容量を掛けます。この値と実際の発電量を比べれば、損失が何%発生しているのか分かります。
と簡単です。傾斜面日射量を使うとより正確な値が求められると思います。
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